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倉島 一著「日本刀 謎と真実」の紹介 近藤 昌敏
 日本刀は千年以上の歴史を持つ日本の伝統文化であるはずですが、現代社会においてはなじみが無く、世人にはテレビや映画の時代劇で見る武士の持ち物、戦の武器としての認識しかされていないのではないでしょうか。
 武器として造られているのは当然ですが、権威の象徴として崇められ、貴ばれ、鑑賞の対象として昔から大変大事にされてきたものです。鑑賞の対象にされたということはそれが美しいということです。日本刀を一度手に取って見たら、その青白く澄んだ鋼の深遠な美しさがお分かりになるでしょう。
 日本刀に関する書籍はこれまでに多く出版されてきていますが、その多くは名刀、名工の解説、用語の基礎知識、鑑賞・鑑定の方法が主体でした。著者は日本刀そのものの深遠な魅力に深く心を捉えられた愛刀家であり、研師でもあります。従って、日本刀を内面から知り得る立場にあったことから、平安・鎌倉時代の太刀の本質に迫るべく検討・検証し考察を行ったものです。
 本文は愛刀家と講師(著者)の問答形式をとり、日本刀の三要素として上げられる姿・地鉄・刃文をそれぞれの章としてまとめています。
 「姿(体配)」の章では、奈良時代以前からのお寺の屋根の勾配は「縄だるみ」と呼ばれ、美しい曲線として知られています。この美しい曲線が日本刀の「反り」に反映されているのではと着目し、この曲線を多くの資料や反りの曲線のコンピューター解析から「懸垂線」であると解明に成功し、結論づけています。
 「地鉄(原料〜刀身)」の章では、研師であるがゆえに知り得た地鉄そのものの特性を炭素量から言及し、さらに日本刀の真の美しさである地鉄についてその要素・働きである「映り」、「地沸」、「地景」「地斑」などについて熱く語っています。
 「焼き刃(刃文)」の章では、やはり筆者が研師であるだけに刃文の明るさ、炭素量、砥石、研磨法さらに刀匠の焼き入れについても言及しています。最終章では「筆者の思考」「正宗、貞宗に対する倉島仮説」など、多くの著者の意見、仮説を述べています。
 筆者は疑問を抱き、思考し、「日本刀の本質美」を追求しながら研磨を続けてきており、真の愛刀家でもあります。本書は、「これまでの刀剣観に飽き足らない愛刀家」向けの刀剣書になっていますが、「謎と真実」を追った刀剣の入門書として一般の方にもお勧めしたいと思います。 
 
 

倉島 一著 「日本刀 謎と真実」



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